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書評: 政府は必ず嘘をつく

普段、筆者も似たようなことをもっと呆然的かつ断片的に考えていた。陰謀とまではいかないが、何かしら大きな「流れ」として世の中、世界がとある方向に向かいつつあるのではないかと。この本はそれの具体例を交えながら、その危うさに肉薄しながら、見事に言語化されている。世界の動きに違和感を感じているならぜひ一度手に取るべき本である。

政府は必ず嘘をつく――アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること (角川SSC新書)

政府は必ず嘘をつく――アメリカの「失われた10年」が私たちに警告すること (角川SSC新書)

 

3.11直後の原発事故は日本人でなくとも記憶していると思う。同時に我々は放射性物質についてあまりに無知だったとも思う。唯一の被爆国であるにも関わらず、正しい知見を持ち合わせる人はほとんどいなかった。それゆえ、御用学者は「安全」を繰り返し、聞きかじりのあやふやな知識で恐怖を煽る素人であふれた。政府は突然、基準値を変更した上で安全性を強調し、それに合わせて産業界も無批判に足並みを揃えた。はっきりいって無茶苦茶な方針としか言いようのないことが待ったなしとばかりに採用された。

さらに質が悪いのが、こうした方針転換の矛盾を指摘すれば「風評被害」をばらまいたとばかりに糾弾され、なし崩し的に封殺されていく「空気」であった。この風潮は今であっても、きっと続いていることだろう。その結果、子どもの学校給食に放射性物質が混入されていても、突貫で決定した「基準値」を満たせば問題とされないのだ。

日本の大人に決定的に欠けていたのは、原子力発電所に対する基礎知識と、放射性物質へのリスク教育である。どれだけ綱渡り状態で社会が回っていたか、その検証と認識姿勢が絶望的なまでに甘かった。いや、甘くさせられていたと言ったほうが正確かもしれない。

 

原発事故を例に取ったが、こうした無茶苦茶がなぜ横行できるのか、本書は丁寧に解き明かしていく。どういう力学からこうした現象が生じ、 何が目的なのか。米国を例に上げながら、どこにどういう思惑が存在するのか迫っていく。

本書にはキーワードが登場する。いくつか気になったものを上げておく。

  • ショック・ドクトリン
  • 「民主主義」
  • メディアと報道
  • コーポラティズム
  • 自由貿易
  • カネの流れ

災害や事件が勃発すればそれなりのニュースを振りまくが、そのニュースが自分の心にどう留まったか、記憶しておくといい。怒りを覚えたか、悲しみに打たれたか、諦めるしかないのか。憎しみなどの負の感情を掻き立てられるニュースは自分の感想だけでなく、周囲の人もどう思ったか聞いてみるといいだろう。感情のベクトルが皆一方向に向かっているときはおそらく冷静になるべき兆候だ。憎悪に駆られた大衆を誘導するのはたやすく、恣意的な意図がニュースの裏に隠されている可能性を否定できない。

恣意的な誘導によって誰が一番得をするのか冷静に判断する際に役立つのが上記のキーワードだ。ニュースに違和感を感じたらキーワードを元に手探りをしていけばきっと何かしら違和感の元に当たることだろう。特に災害や事件が起きた少し後の動きを見るときに役立つことは約束できると思う。

 

今現在、イスラム国(ISIS)が中東で暴れ回っているが、この本の著者ならこれをどう見るだろうか。残虐かつ蛮行極まりない映像を、次々と遠慮なく流してくれるが、どこか不自然さを感じないだろうか。

米国による空爆も行われているようだが、この騒ぎが一段落したあと、世界はどのような動きを見せるのか。絶えず戦闘地域を作らなければ回らないシステムの次のターゲットはどこなのか。夜に読めば寝不足を覚悟しなければならない本である。