読書録゛ ‐ どくしょログ

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書評: 10年後の日本

 ちょうど今から10年前に書かれた本。10年前にも一度読んでいる本だ。

10年後の日本 (文春新書)

10年後の日本 (文春新書)

 

 その時はあまりピンとこなかったが、今読み返すとなかなか興味深い。多くの面でかなり近いところまで当たっているし、反面、いくつか外れているところもある。

 ただ、こうした未来予測をすることにどこまで意味があるかは正直わからない。結局のところ、多くの人は目の前の現実に忙殺されていることがほとんどであり、10年後のことまでが、実感として理解できる人間は一握りだ。せいぜい想像を膨らます思考実験としては読まれることがほとんどなのではないだろうか。10年後の未来は、10年後にならないとわからないのである。

 

 ちょっと身も蓋もないことを書いてしまったが、いくつか興味深かったことを、少しネタバレになるが、あげておきたい。(消費税が二桁に増税されることなども書いてあるが、こんなのはわかりきったことであるから省略する。)

  • 格差社会の拡大
    これは日本に限ったことではなく、今や世界的潮流だ。世界トップ1%の富裕層がほとんどの富を握る現状は、何も日本だけの問題ではない。格差社会が広がりをみせることまでは予想できていたが、ここまでひどくなることはさすがに予想できていない。
  • ものづくり大国の凋落
    団塊の世代の大量退職で、これまで培ってきた技術が消えていくことを危惧していることが書かれている。だが10年後の現実はもっとシビアで、技術だけでなく価格、販売手法といったあらゆる面で勝てなくなってきている。シャープなどはそのいい例だろう。トヨタなどの巨大企業はまだ生き残れているが、さらに10年後、Teslaなどにトップの座を明け渡している可能性は捨てきれない。
  • テクノロジーの進化
    10年前と比べると確かにテクノロジーは進化した。本書では水素燃料自動車の到来を2023年としているが、2016年現在、燃料ステーションがまだ少ないとはいえ、すでに登場している。予想を超えるスピードでテクノロジーは進化している証左とも言える。
    ロボットの登場についても書かれているが、これも当たっている面もあり、はずれているところもある。日本は確かにロボット技術では優れたものを持っている部分もあるが、原発事故の際に、緊急時に役立つロボットの開発はほぼ皆無であったことが露呈してしまった。海外からロボットを導入するという、「ロボット開発が進んだ国」としてはあるまじき失態を演じた。所詮は「いざというとき役立たないロボット」ばかりを開発していたということになる。
    また、本書では人工知能の進化については触れていない。せいぜい「学習ロボット」という単語が登場する程度である。だが、現在からこの先10年は、ロボット開発よりも機械学習などの人工知能の進化がすさまじくなる。もちろんロボットに人工知能が搭載されることもあるだろうが、人工知能の進化に追随する形でロボットが開発されていくことになるだろう。

 ほかにも人口やエネルギー問題、地震予知、気候変動など多岐にわたって予想されている。

 筆者の個人的な読み方だが、こうした本は未来予測として読むよりも、現実が到来してからどこまで予想が当たっていたか確認しながら読むほうが味があると思う。未来が到来した今だからこそ、読んでみて欲しい本である。