読書録゛ ‐ どくしょログ

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書評: 夜にその名を呼べば

これも友人から頂いた本。まだドイツが東西に分かれていた頃からはじまる話。

夜にその名を呼べば

夜にその名を呼べば

 

物語の主人公は自分の会社に嵌められ、「東側」へと逃げていく。そこで行方をくらまし、かなりの時間が経過する。ある日、彼に関係する者たちに、日本に戻ることを予告する手紙が来る。復讐を果たしに来るのか、目的は何なのか、ハラハラさせる展開で話は進んでいく。

 

1980年代、当時はソビエト連邦もまだ存在して、「東側」の国々は得体の知れない人たちが住んでいると子ども心ながら勝手に思っていた。オリンピックに登場する東側の選手のほとんどが表情は固く、たとえ金メダルを獲得してもあまり笑わなかった印象が残っている。恐ろしい国で生まれ育つと、このように無表情になっていくものなのかと怯えたものだ。

この小説、強いて言うならそうした「恐ろしげな東側」の演出がもう少し欲しいところであろうか。もしくはその逆で、恐ろしげに見えた東側の人々の実生活は想像と違った、といった描写があると面白かったかもしれない。ただそうしたら、最後に来るどんでん返しがわざとらしくなることも否定できない。著者は東側の描写を入れたくも、あえて大幅に削った形で書き上げたのではなかろうか。

 

話は少し逸れる。

異国暮らしが長くなると、この小説に登場するような、本社/国からハシゴをはずされる恐怖感に襲われることがある。片道切符であることのほうが多かった何十年前の人々から言わせれば軟弱な精神なのだろうが、母国とのつながりがあるということは思いのほか大切なことなのだ。

小説だけでなく、現実世界でも棄民政策などで本国から裏切られてきた人々は多い。同様の立場になることを想像すると胸が痛む。こうしたハシゴはずしは小説の世界だけの話に終えてほしいと切に思う。少説の最後は切なくなってしまった。