読書録゛ ‐ どくしょログ

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書評: 38口径の告発

 友人からいただいた本。

38口径の告発 (朝日文庫)

38口径の告発 (朝日文庫)

 

知り合いや友人から貸してもらったり、いただいたりする本は、自分の趣味嗜好と異なっていることが多いが、逆にそれがよかったりする。自分の価値観では買わない本も多いので、それが新鮮味を与えてくれることもある。反対にまるで面白くなく、途中で挫折することもあるのも事実だが・・・。

この小説はスラスラ読めて、ページをめくる感触が楽しい。総ページ数も300ページ弱なので、読むのが速い人なら半日もかからないと思う。難しい本を読んだ後などに、息抜きとして読むのに最適だ。

この小説は警察の闇を描いている。だが、多少設定に無理があると思う。悪徳警官がいるのは事実だが、ここまで愚かではない気がする。こんなにボロを出す警官がいるのであれば、今頃日本は最悪の治安になっているはずである。主人公もここまでお人好しな医者もいないと思う。

どちらの業界も現実の闇はもっと根深く、表面には現れにくいはずだ。強固なヒエラルキーの下、幾重にも重なった警察界の澱はそう単純に拭えるものではない。名誉欲と派閥意識が物言う医師界にあって、異端者が生き残るスペースは想像以上に狭いはずである。

どこの世界にも異端は存在するが、小説に出てくるような格好のいいものではなく、どちらかというとどこかネジが外れてしまった者が妬みの眼差しを持って穴ぐらに生息している感が強い。矜持を持って仕事をするものは少なく、隙あらば表の世界へ、誰かにしがみつき、時には蹴落としながら這い上がる者のほうが多いのではないか。

ハードボイルドの匂いが強い小説なので、格好良さを醸しだすのは仕方のないことかもしれないが、悪行を行うもの同士が蹴落とし合うドロドロした世界をもっと描写してみると面白かったかもしれない。きれいなままでは終わらせたくない読者には物足りなさはあると思う。

ただ、そうであってもサクっとした読み物をサッと読みたいときには最適な小説であるのは間違いないだろう。