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書評: ルポ 貧困大国アメリカ

 経済的な徴兵という概念をこの本で知った。筆者にとって、読むのは今回で二度目となる本だ。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

 

先日、マクドナルドに行く機会があったが、その時、迷彩服を着た集団が後から入ってきた。英国で兵隊さんがいるのはそんなに珍しい光景ではない。ただ、この迷彩服の集団は際立って年齢が若かった。明らかに中高生ぐらいの年齢であり、一人前の兵隊として未熟であることは一目瞭然であった。

この本の舞台は米国であるが、この中に登場するJROTC(Junior Reserve Officer Training Corp)を思い出した。これは15歳から18歳を対象にした、若者に軍事的規律を植え付けるための任意参加プログラムだ。英国にこれと類似したプログラムがあるのかどうかわからないが、マクドナルドに入ってきた迷彩服の若者たちはそうしたプログラムに入隊しているのかもしれない。英国はかなり強固な身分社会が存在する。下層に位置する人々の子どもたちが将来、社会で一般的な生活を望もうとするなら、こうしたプログラムに身を投じ、過酷な軍隊と戦場を生き残らなければならないのかもしれない。

貧困と軍事は密接に結びついていることがこの本からは見えてくる。戦争が「民営化」し、「ビジネス」と化した現代の米国において、安い人件費は必須要件なのだと思う。別に戦闘員である必要性は全くなく、輸送、補給、清掃(証拠隠滅)などにおいてもタダ同然で使える労力は喉から手が出るほどほしいはずである。破格な給料を提示し、労働者がそれに飛びついてくれれば後は彼らを戦地に送るだけ。戦時下の状況では、どのような「不慮の事故」が起きたとしてもおかしくはない。

たとえ生き残り、満額給料が支払われたとしても、それを回収するシステムは米国では出来上がっている。戦地から生き残れても五体満足な人は少なく、精神疾患を持ち帰る人も少なくない。凄まじく医療費が高い米国(例えば救急車を呼ぶだけで$1,000以上などザラ)では、稼いだお金は治療費にあっという間に消えていく。シームレスに貧困回帰できるようなシステムが、意図的に作られていると見ても不自然ではない。

このようなカラクリがさまざまなところで仕掛けられているのが米国社会の現実のようだ。英国でも、冒頭の話でも上げたように、そのようなカラクリが存在する可能性は極めて高いと筆者は勘ぐっている。

そして日本でもそのカラクリが着実に作られていると見たほうがいいだろう。なぜこんなに格差社会が広がったのか。秘密保護法や集団的自衛権を認めるのになぜこんなに急いだのか。ブラック企業の横行を止めて行こうとする動きは少ないばかりか、成長戦略の名の下、ブラックに有利な政策がなぜ提言されるのか。なぜブラックな人材の多くが組織トップに君臨するのか。なぜ世の中の知性が低下していることに無批判なのか。この本を読み終えたあと、一見別問題に見える各々の問題が一つずつ繋がりを見せはじめているような気がしている。

二度読んでもこの本は将来への手がかりを与えてくれている。全然色あせていると感じないのは、日本が米国と同様の問題を抱え始めているからではないだろうか。おそらくこの本の著者、堤未果氏は数段先が見えているはずである。貧困と戦争ビジネスとの関わりを最小限にするためにも、この人の書く文章からは目が離せない。