読書録゛ ‐ どくしょログ

触れた、読んだ、書いた

書評: 海峡の光

  書評のバックログが溜まりまくっている。読んだ内容を忘れはじめているので早く書いていきたい。これも知り合いから頂戴した本。

海峡の光 (新潮文庫)

海峡の光 (新潮文庫)

 

 辻仁成氏の本は今回初めて読んだ。どうも流行作家にはあまり手が出なかったが、読んでみたらそれなりに興味がわいた。流行りの小説というよりも純文学に近いテイストに仕上がっていると思う。

 主人公は元青函連絡船の客室係で、今は刑務所の看守。そこへ昔のいじめっ子同級生、花井が服役するところから物語ははじまる。昔とは強弱の立場が逆転した中での話が進んでいくが、主人公は強い復讐心に燃えるわけでもなく、かといって過去の体験をまるで無視するような、看守の仕事に忠実で冷徹な態度を取れるわけでもない。なんとも煮え切らない中途半端な姿勢が読者の注意を引くか、苛立たせるかは評価が分かれるところだろう。

 反対に花井の態度は一貫している。服役を自分の運命の一部として採用し、採用しすぎているために随所で問題を起こす。刑務所という場に自分の居場所を見つけ、自分の世界を作り上げていく。

 社会的な立場という視点で見た場合は、主人公の地位は圧倒しているはずが、花井と比較していくに連れ徐々にその浅ましさに読者は気づかれることだろう。とはいえ、主人公から視点から見た花井の行状は気味が悪く、過去のいじめっ子体験からも全面的に受け入れられるものではない。どちらにも肩入れすることができない中途半端さを残していく。

 ある意味とても人間臭い物語であるが、中に登場する言葉は一見すると、とても純粋でその臭いを消し去る。内容は泥臭いが、それを覆う文体はともすると「きれい」に見える。筆者にとって小説の内容は覚えていられるが、「きれい」な文体はほとんど記憶に残らなかった。

 この本の著者は相反することや表裏一体を表現するのが好きなのであろうか。どうして純粋で「きれい」な修辞で着飾りたがるのだろうか。もう少し他の作品も知りたいと思う。