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書評: 若者よ、マルクスを読もう 20歳代の模索と情熱

 いただく本を乱読するのもたまには良いが、自分の読みたい本も読み進めなくては人生の読書時間がもったいない。

若者よ、マルクスを読もう  20歳代の模索と情熱 (角川ソフィア文庫)

若者よ、マルクスを読もう 20歳代の模索と情熱 (角川ソフィア文庫)

 

 内田樹氏の書く文章がとても好きだ。唐突に難解な漢字が使われたり、理解しにくい論理をもじった表現も、内田樹氏であればなぜか水が土に沁み入るように心の隙間を埋める。文章や論理を理解できたかどうかを確かめる術に、「これを別に例えるならどう表現するか?」と問う方法があるが、内田樹氏の書く文ではこれはきっとうまく機能しない。機能しないがそれでいて腑に落ちた感覚だけは、確かに胸の内には存在するのだ。とても不思議な文章だと思う。

 

 さて、この本はマルクスの著書をどう読めば面白く感じられるか、石川康弘氏とともに書かれた共著である。二人の文章を書簡形式でのやり取りで文章は進められる、いわばマルクス入門書となる。高校生向けに書かれた案内書とまえがきにはある。ただ筆者はもう青少年時代を卒業してだいぶ時間は経過しているが、充分大人でも面白く読める本であると思う。もしかしたら高校生でこの本の内容を理解するには難しいかもしれない。だがきっと大丈夫。先述したとおり、文章そのものを微細に理解できなくともなぜか大筋は心に残っていくので著者の言いたいことは伝わってくるのである。

 本書の内容は伝わってきてもマルクス自身の書く文章が伝わってくるとは限らない。筆者は残念ながらまだマルクスを読んだことはないが、本書から難解であることは間違いなくわかる。本書には所々マルクスの文が引用されているが、一文一文をよぉく読み込まないと意味がわからない。読み込んでも意味がわからない。マルクスが書いたものをいきなり読んでいたら、挫折することは保証できよう。本書によりマルクスの生きた時代背景の説明があって初めて理解できたものも多い。断片ながらでも理解が進めば少しは読んでみる気が起きるというものである。

 

 マルクス主義など社会主義国が次々に崩壊して、廃れて久しいと思う人は多いだろう。筆者もその一人であった。だが本書を読むと、どちらかというとこれからがマルクスの本領を発揮する時代の到来があるのではないかと思わせる。高度に発達した資本主義下で働く労働者の環境はひどくなるばかりという現実があり、しかもそれをバックアップする形で政府は状況の悪化に拍車をかける。筆者はマルクス主義を肯定するつもりは全然ないが、これを見直す土壌が生成されるのはそう遠くない将来なのかもしれない。

 最近、漫画の「はだしのゲン」が読者の目から遠ざけられようとしているが、これに近いことがマルクスの本に対しても今後起きるかもしれない。だが、一度火がついてしまったものをどう遠ざけようとも人々の目に触れることだろう。本書によればマルクス自身は暴力的な行為を肯定していなかったようであるが、受け取る人の解釈次第でどう転ぶかはわからない。高揚感のある文章はときとして人をあらぬ方向に駆り立てるものである。マルクスが見直されること自体に異論はないが、暴力が伴うものであるならご勘弁願いたい。

 この本の「II」が出ているそうである。それもぜひ読んでみたい。