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書評: イギリス人はおかしい

 この本が書かれた時代は今から十数年前だが、現在でも共通する部分は多い。日本から英国に移住すると、はじめ苛立つことは数しれない。

イギリス人はおかしい―日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔 (文春文庫)

イギリス人はおかしい―日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔 (文春文庫)

 

 その一つに時間や期限を守らないというのがある。英国へ行くことが決まり、引越しを済ませると、ほとんど必ずと言っていいほど遭遇するのが水と電気周りのトラブルだ。お湯が出ないなどかわいいもので、電気が通っていなかったりもする。水や電気がないと都市生活らしいことはほとんど何もできないに等しいので当然、不動産屋や業者に電話をかける。しかし、スケジュールが埋まっているとかで来るのが一週間後などと平気で宣う。しぶしぶそれを承諾し日付と時間を決めても延期されたり、最悪当日になっても「車が故障した」などという言い訳で来なかったりする。しかもこちらから電話しないとその適当な言い訳さえも聞けない。筆者の同僚では電気のない部屋で約一週間ロウソクで暮らしたという方もいる。

 万事がこの流れで進んでいき、仕事上とてそれは変わりない。自分の怠慢から生じる遅れも、納期そのものを遅らせることで対処しようとする。「納期は絶対」と新人の頃から教え込まれた筆者にとって、これにははじめ目眩がした。日本と関わりのあるプロジェクトでは、その遅れの弁明をするのに四苦八苦した。なぜ遅れるのか日本では意味がよくわからないのも当然だと思う。なぜ現地スタッフの怠慢弁明を責任者でもない筆者がしなくてはならないのか、これもよく意味がわからないが。

 

 この本の著者はかなり気の強い方と想像できる。というより、英国では気を強く持たないとやって行けない側面のほうが強いのだろう。本書ではイギリス人特有の皮肉のやり取りが随所に登場するが、言い返せるだけの度胸と見識を持ち合わせているのはさすがである。皮肉を先方の国の言葉で、かつ適時適所で表現できるのは、相手の文化や置かれている背景を理解しなくてはできない高度な技術である。筆者には勉強不足でとてもマネできない芸当だ。

 だが、言葉でなくとも「雰囲気」で伝えられるものは存在する。うれしいことや怒り、緊張感や落ち着きなどはできるだけ全身で直接的に表現するようにする。彼らからすれば幼稚な表現方法であると受け取るのは間違いないが、それでも伝わらないよりはマシだと思う。メールなどの文章表現のほうでは、即時性を求められるものではないので、それなりに時間をかけて核心をつく表現を心がける。表現方法にギャップが生じることで、少なくとも相手方への牽制になることは間違いない。

 

 この本は渡英する前に読むこともおすすめできるが、渡英してしばらくしてから読んでみてもいいと思う。渡英する前だとおそらく「ホンマかいな」と思う読者は多いだろうが、渡英したあとでも読めばうなずける部分は数多くあるはずだ。ただ、観光旅行で英国に来る方が読むと夢をなくされるかもしれない。英国の良さと悪さを知るには、やはりある程度時間が必要なのだから。