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書評: 『小説 会社再建』を読んで

 この本を読んでみた。古き良き時代の「会社再建」といった感じ。

小説会社再建 (講談社文庫)

小説会社再建 (講談社文庫)

 

話はテンポよく進み、内容も悪くない。興味深いのが、当時では許されるであろうが、今ではブラックのレッテルを貼られそうな事柄が随所で登場する。時代背景によって黒が白になったり、その逆になったりするのだなぁ、と考えたりした。

 

この小説にも出てきたが、少し前まであった(今でもあるが)会社の熱血研修などは評価の分かれるところだろう。大声で自己批判を行い、自己を「見つめ直す」研修は人それぞれの見方によって、洗脳と感じたり、甘えを取り去るための必要行為とみなす人もいるだろう。時代背景やその企業の置かれている状況によって、そうした研修は「必要悪」となるのかも知れない。

筆者は、以前のブログからも推察できる思うが、そうした研修は少しでもなくなっていく世の中を望んでいる。人は自分の考えに従って生きていける社会が一番望ましいと考えているからだ。気づきは研修を受けずとも、自らの考えから想起できることが最も望ましい。ある意味、強制的に想起させるような環境は少しでも減らしていくことこそ、成熟した社会と言えるのではないだろうか。

おそらくこの小説に登場する主人公、坪内寿夫氏は、そのような成熟した社会が望ましいことはわかっていながら「研修」を行なっていたのではないか。どうしようもない「甘え」を取り去るための苦渋の選択の一つとして行ったのではないか。小説なので本当のところは不明だが、理由はどうあれ、結果的に研修を強力な「経営層への利益誘導」として捉える現在のブラック企業とは、ある意味異なる部分であると思う。一方では受け入れ難い行為でありながら、他方では理解ができなくもない、複雑な気持ちになる場面である。

従業員を家族と見る考え方や、組合活動を会社再建の妨害と捉えている見解には受けれ難い部分も多々登場する。だが、「会社」という存在に対しその価値観が現在と当時でどう違うかを見ていくにはなかなか参考になる小説であると思う。